ニュースリリース
快適で健康な空間づくりに向けた共同研究で
ダイキン工業株式會社
理化學研究所
理化學研究所(以下、理研)とダイキン工業株式會社(以下、ダイキン工業)の連攜組織である「理研BDR-ダイキン工業連攜センター※1」は、2017年より取り組んでいる快適で健康な空間づくりに向けた共同研究において、夏季のオフィス環境における快適性や疲労の改善に有効な溫度?濕度を検証しました。
昨今、省エネの観點からオフィス空調の設定溫度を高めにすることが推奨される一方で、多くの人が蒸し暑さを感じ、作業効率の低下や疲労の蓄積を感じているといわれています。
溫度?濕度が人に與える影響については、これまで行われてきた検証の多くが「快適性」といった心理的な評価によるものでした。そこで今回の試験では、ヒトの「疲労」への影響に著目し、心理的評価に加え、心拍変動から推定される自律神経活動などの生理的評価も分析し、複合的な側面から検証を行いました。
その結果、室溫28℃でも濕度を55%以下に保てば快適性が向上し、さらに40%以下であれば疲労も軽減できることが実証されました。
これらの結果から、調濕機能の付いたエアコンや換気設備、除濕器を上手に活用することで、夏のオフィスをより一層、快適?健康な空間にすることが期待できます。なお、濕度コントロールが難しい環境においては室溫を26℃まで下げることで、快適性の向上や疲労の軽減といった効果が見込まれます。
今回の実証試験では、空調が保たれた室內で一定時間過ごすことを想定し、固定した溫濕度環境下での快適性、疲労感、自律神経活動を評価しました。
しかし実生活では、屋外から屋內への移動など、さまざまな溫度差にさらされて、體調に悪影響が生じる場面があります?,F在、體溫調節のメカニズムの解明に向けて、こうした激しい溫度差による人體への影響を評価する試験も行っており、これらの結果については第16回日本疲労學會総會(2020年11月7日-8日、神戸市)にて、理研とダイキン工業が共同で発表を行う予定です。また、全體の成果は、論文誌?學會誌などに投稿予定です。
ダイキン工業では今回の研究成果を応用した製品?ソリューションの開発も進めています。
一定の溫濕度環境と、ヒトの疲労度との関係を明らかにすることを目的とした実証試験を実施した。疲労の評価については、ヒトの主観に基づく心理的な評価指標と、課題成績や心拍変動解析を用いた自律神経活動等の生理的な指標を用いた。パソコン操作など集中力を要する作業を與え、溫濕度環境がおよぼすヒトへの心理?生理的な影響を検証した。試験は、ダイキン工業の空調制御技術により精緻に統制された溫濕度環境內で、夏季の一般的なオフィスの環境を想定し、室溫24℃から30℃、濕度40%から70%の範囲で行った。
試験環境として溫度4條件(24、26、28、30℃)と濕度3條件(40、55、70%)を組み合わせた計12條件の溫濕度環境を設定した。健康な成人の參加者(男性57名、女性57名、年齢 40.6±12.5歳)に協力をいただき、疲労負荷をかける認知課題(Advanced Trail Making Test)を與えて、10分ごとに疲労感や快適性などについての心理的な評価を行ってもらった(図1)。試験中は攜帯型の心電計を裝著することで、疲労に伴う心拍変動を常時記録した。また自律神経支配を受ける心拍間隔の周波數解析を行うことで、疲労に伴う自律神経バランス狀態を推定した。
図1:試験條件と課題概要
図2:試験のプロトコル
溫濕度12條件での試験を行った。それぞれの環境下で、試験開始前に試験環境に體を慣らすため10分間の順化時間を設け、試験の開始と終了時には安定した心電波形を得るため5分間の安靜時間を設けた。試験開始後は10分間の認知課題を計6セット繰り返して実施し、その前後に2分間の心理的評価を行った(図2)。
〇體感溫度
30℃條件では濕度を低くするほど體感溫度が低く感じられた。28℃條件では濕度を55%以下に調節すれば、より涼しく感じられることが確認された。
図3. 調濕による體感溫度の軽減
〇不快感?疲労感
快適性については、26~30℃までの幅広い室溫條件において、濕度を下げることで不快感が軽減されることが明らかになった。
疲労感については、室溫28℃、濕度40%の條件下において顕著な低下が見られ、55%以下でも軽減の傾向が見られた(図4)。
図4. 調濕による疲労感と不快感の軽減効果
〇自律神経活動LF/HF
図5. 溫濕度に対する自律神経指標
これまでの研究からも、心拍數は室溫の上昇に伴って増加することが知られているが、自律神経活動の指標となるLF/HF値についても有意な上昇がみられた。この結果は室溫の上昇に伴って體溫調節機能を司る自律神経系への負荷も増加している可能性を示している。
図6. 調濕による生理的影響 ※24~30℃の主効果
一方で、夏季に想定される溫度環境(24~30℃)では濕度を70%から40%に下げることで、心拍數に関する有意な抑制効果がみられた。自律神経指標については、個人差が大きく低減の傾向のみが確認できた。これらの結果から、室溫のみならず濕度を調整することで心拍數の上昇が抑えられ、身體への負荷を下げられる可能性が示された。
男性は24-26℃、女性は26℃で最も快適性が高くなる傾向がみられたが、女性の場合は、28℃でも濕度を55%以下に抑えることで、室溫26℃の時と同等の快適性を感じられた。一方で、男性は28℃で調濕するよりも溫度を24-26℃に下げる方がより良い評価が得られた。
また濕度40%の環境下では、女性の場合、溫度を24℃まで下げると評価が悪くなったが、男性は女性の時に示された不快感の増加は見られなかった。
これらの結果から、夏季の作業環境においては、室溫だけでなく濕度を下げることが不快感の軽減につながると言えるが、男女の基礎代謝の違いにより、女性の場合は24℃まで下げてしまうと、寒さで不快に感じる人が増えることが確認された。
図7. 性別による違い
E-mail:ex-press@riken.jp
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